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  2. 森川博之氏 特別寄稿

情報共有と構想力

森川 博之 氏

東京大学 先端科学技術研究センター 教授

縁があって、2011年4月上旬にボランティアをしに石巻に向かった。向かうことに関しては気楽に考えていたのだが、いざ手配しようとしたとき、ホテルとレンタカーが難問であることに気づいた。仙台近郊のホテルは市内を含めてすべて満室、レンタカーもすべて満車という状況だったのである。復旧に向けて多くの人達が動かれていることを痛感したが、幸いにもレンタカーを一台確保し、直前に再オープンした塩竃のホテルに宿泊することができ、石巻に向かうことができた。

石巻では、NPO法人のボランティア団体の手伝いをしながら、活動内容を教えていただいた。

  • 物資整理・配給(全国各地から届く支援物資の整理と配給)
  • 炊き出し(避難所等での食事提供)
  • 泥出し(個人宅からの泥出し作業)
  • ローラー(個人宅に伺っての物資などのニーズ収集)
  • リラクゼーション(避難所での散髪やマッサージなど)
  • 市・警察・消防・自衛隊などとの情報共有
  • EM・竹炭(有用微生物群(EM)や竹炭を用いた衛生状況の改善)

など、ボランティアの活動内容は多岐に渡る。ボランティア登録した方々に対して仕事の割り振りを行うことも、重要な仕事である。

中でも泥出しは強烈な経験であった。泥出しとは、津波が運んできた汚泥を家屋から出す作業のことである。
 家屋に降り積もった泥は重く、畳や家具が水を吸って重さを増すため(畳一枚100kgにもなるとのこと)、女性や体力のない人では掃除さえできない。外見は普通の家であるものの、内部は1階の天井近くまで泥まみれになっており、表面をはがしていくように泥の撤去を行う。屈強な男性(もちろん筆者は屈強な部類には入らない)が10名近く泥出しを行っても、一軒の泥出しが一日では終わらない作業量である。多くのボランティアの方々が毎日地道に泥出し作業をされておられることに、とても感じ入った体験であった。

さて、本題に入ろう。ボランティア団体の方々などと話をさせていただいて痛感したのは、情報共有の重要性だ。被災者の方々のニーズを収集して複数のボランティア団体で共有したり、ボランティア登録をされた方々の技能に応じて作業を割り当てたりするためには、情報を的確に共有できていないといけない。被災者のニーズと自宅位置とを把握して、一軒ずつ回っていく作業を効率良く行うためには、情報に基づく「最適化」処理も必要となる。

また、自衛隊、警察、消防、市、ボランティア団体など、復旧に向けて活動している組織間での情報共有も必須である。全体の動きを把握してこそ、個別の活動の意義を明確にすることができ、部分最適が全体最適につながるためである。

情報通信屋に課せられた役割の一つが、このような情報共有システムの構築である。もちろん、通信インフラの復旧を震災直後に迅速に行うことが最重要課題であるものの、通信や電力インフラが復旧した後は、情報共有システムの果たす役割が大きい。

情報共有システムを構築するためには、構想力が欠かせない。現場を徹底的に理解し、構築したシステムがどのように貢献するのかを予測した上でシステムを設計する能力である。将来必要となり得る状況をあらゆる角度から推測し、システムの設計に結び付けていかなければならない。経営でも、研究でも、開発でも、あらゆる分野で求められる能力であり、未来の完成品を論理的に予測できる力だ。

情報通信技術は、汎用技術(General Purpose Technology)になりつつある。都市設計、環境、農業、医療など、どのような分野においても、情報通信技術が使われはじめている。これからの情報通信屋は、情報通信技術の使われ方に想いを巡らし、社会を支えるシステムの設計を行っていかなければならない。もちろん、情報通信技術の進化にも貢献していかなければならないものの、情報通信技術の「出口」をもあわせて考え、夢を語ることのできる人材を産み出していかなければならない。石巻でのボランティア経験で強く感じたことである。

(写真はすべて森川様のご提供によります)