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東日本大震災を経験して考える日本の将来

大塚 久哲 氏

九州大学 工学研究院 建設デザイン部門教授

東北地方太平洋沖地震発生と津波襲来

2011年3月11日午後2時46分三陸沖を震源とするM9の超大地震が発生し、この地震とその後襲来した津波による死者行方不明者は1万9千人を超えました。まさかの大津波による被災地の惨状を映し出すテレビ映像に驚愕の声があがりました。

過去の三陸津波の経験により15mの防潮堤を築いていた岩手県普代村は津波の越流を免れましたが、10mを越す防潮堤を築いていた宮古市田老地区では越流を阻止できず、平地の街並みはほぼ壊滅しました。岩手県・宮城県・福島県の三県では地形によって被害の形態は違いますが、海岸地区の惨状はどこも目を覆うほどの凄まじさでした。

少子高齢化社会における震災復興

被災を受けた地域の復興は11年度第三次補正予算の成立によりようやく端緒についたと報道されています。政府の復興基本方針では、復興財源の確保、農林水産業の集約化・効率化、土地利用規制の見直し、規制緩和の特区創設、エネルギー政策の抜本的見直し、防災から減災へのシフトと防災教育の充実、などをうたっています。これらの方針の実施にあたっては、漁村・農村の過疎化と高齢化に注意が必要でしょう。これまでの災害復興のような現状復帰という発想から、将来の人口動態・経済動向を見据えた再生プランが必要とされています。1993年北海道南西沖地震の津波で甚大な被害が生じました奥尻島青苗地区の復興後の推移をみると、復興事業によっても人口減少に歯止めをかけることは難しく、国土の開発と保全に関してなお一層の柔軟な発想が期待されます。

交通インフラの復興のこと

今回の地震での道路橋の被害は地震動によるものは少なく、津波による流出がほとんどでした。地震動による被害が少なかったのは1995年の兵庫県南部地震を教訓として、道路橋示方書を改訂し耐震補強を進めたことによるといえます。東北新幹線の被災高架橋は、耐震補強が間に合っていなかったからでしょう。津波による流出が多数発生したことにより、津波に対する橋梁設計が今後、確立することが期待されます。

津波浸水域における避難支援として、筆者は高架道路の整備が有効と考えています。陸前高田市や三陸町志津川地区、気仙沼港湾地域、大槌町など、市街地が広く高台が海岸線から遠い地域には、徒歩の避難者も高架道路に上れるような工夫をして、一人でも多くの人が無事、高台に避難できるようにすることが重要と考えています。

原発事故における痛恨の全電源喪失

今回、甚大な被害を受けた福島第1原子力発電所では、想定津波高を大幅に超える津波が発電所敷地を襲いました。これによって原子炉建屋周辺の諸施設が流出・冠水・損傷し、機能不全に陥っています。大事故に至る直接的な原因は冷却用非常用電源の機能停止であり、原発事故対策の3原則である「止める・冷やす・閉じ込める」のうち、止めるだけしか行えませんでした。

問題は想定津波高を超える津波が来たときの備えがどれだけ真剣になされていたかだと考えます。後述のように福島原発では、その備えがなかったと言わざるを得ません。

報道等で明らかになっていますように、原発関係の技術者は外部電源が必ず確保されているとの前提で、複雑な原発システムを運用しています。もちろん3重、4重のバックアップ電源を備えていたわけですが、送電鉄塔の崩壊と津波による浸水で、これらの電源システムは簡単に破壊されました。想定津波高を越えたときのことを考えて、バックアップ電源の諸施設をもっと高いところに移すなどの処置をあらかじめ実施しておけば、少なくとも津波に起因する事故は防げたと思われます。今回の地震の前に改訂されていた原発の耐震基準に対するバックチェックの委員会などで、研究者から想定津波の見直しの提言などがなされていたという報道に接し、当事者の対応に義憤を禁じ得ません。

原子力発電所などのように一旦事故が起きると、人的・経済的影響が想像を絶するほど広範囲に及ぶ最重要構造物に対しては、想定以上の外力に対する備えを十分にしていく慎重さが求められます。このような事業に関わる人々の災害に対する想像力の欠如は、今回の事故に対する外国の反応を見てもわかるように、国家の信用を失墜させるほどの影響を及ぼすことになります。この事故で、技術レベル、安全への配慮、行政の仕組み、データ公開などに関して、日本の評価が決定的に低下したことは本当に残念なことです。

このようなことが将来、別の原発や他の自然災害で起きない保証はありません。今後、このような事故は防ぐために、そのような立場の人々に責任を果たさせるべき社会的仕組み作りや法律上の罰則の適用を行うことを痛感します。

原発事故により脱原発依存社会へ

原発事故発生後、活断層直上に立地し日本で最も危険とされる浜岡原発が運転中止になったほか、定期点検済みの原子力発電所も再開が困難な状況が続き、電力不足が危惧される日本列島となりました。国民の節電意識と産業界の電力需要平滑化などの努力によって今夏の電力不足は何とか凌げました。

各種世論調査では大部分の国民が原発に依存しないか依存度を極力小さくした社会を望んでいますが,再生可能エネルギーによって必要な電力供給が本当に行えるかを不安視したり、原子力産業の衰退を不安がる人も多くいます。脱原発を達成するための電力供給に関する工程表もいまだ明確にはなっていません。

巷間話題になっている再生可能エネルギーは太陽光・風力・地熱・バイオマスなどでありますが、現在のところ微々たる供給量しかありません。再生可能エネルギーによる電力供給の最大シェアは現在のところ水力発電であり、これによる電力供給量の増大が、今後の日本の電力供給量を安定させる上で重要な鍵となると考えています。

再生可能エネルギーとしての水力発電への期待

資源エネルギー庁による包蔵水力の調査によれば、2007年度の一般水力(混合揚水を除く)発電設備容量は2220万kW、発電電力量は927億kWh/年となっています。総発電電力量を9565億kWh/年(2009年)としますと、その割合は約9.7%です。これに対し工事中・新規水力開発地点による一般水力発電電力量の見込み高は468億kWh/年とされています。しかもこれらはダムに頼らない流込式の割合が多く、ダム等の大型工事を行うことなく、これらの発電量の開発が期待されます。

一方,(社)日本プロジェクト産業協議会の報告書によればダムの弾力的運用・嵩上げ等による発電電力量の見込み高は343億kWh/年とされています。また、(財)新エネルギー財団の報告書によれば既存ダム・水路の未利用落差発電により、発電電力量17億kWh/年が可能とされています。これらの合計値は828億kWh/年となります。

さらに、(財)新エネルギー財団の報告書によれば日本の小水力発電の可能性は大きく、10~100kWのもので出力200万kW程度とされています。1~10kWの発電も同程度の量が期待できるとの見解もあります。仮に、発電容量を400万kWとし、その年間稼働時間を4000時間とすると、発電電力量は160億kWh/年となります。

上記の828億kWh/年と160億kWh/年を足しあわせると約988億kWh/年の総発電量となり、前述の2009年の総発電電力量9565億kWh/年に対する割合は、10.3%となります。このように日本に与えられた数少ないエネルギー資源である水力エネルギーを本気で開発する決意があれば、将来これだけの発電電力量の上乗せが可能となる計算です。大いに期待したいところです。

震災で国家が没落する?

近い将来必ず起きると言われている地震に首都直下地震と東海・東南海・南海地震(以下、西日本大地震と呼称)があります。(今後30年での発生確率は首都と南海が70%、東海が88%、東南海が60%程度となっています。)

前者は内閣府の中央防災会議が、最大で死者1万人以上、経済被害総額112兆円と想定しています。後者は東海地方から四国地方にかけて起きるプレート境界型の巨大地震で、これの被害想定は、死者2万4千人以上、被害総額81兆円となっています。(最近はこれに日向灘地震と海溝よりの震源域も連動し得るとしていますので規模と被害はもっと増えることを覚悟しなければなりません。)

ここで、1755年リスボン地震による津波と火災によって、ポルトガルの主要港リスボンとその周辺の工業が壊滅したことを思い出しましょう。この地震により、津波による死者6万人前後の人が死亡したといわれています。大航海時代にはスペインと並ぶ強国だったポルトガルは、この地震を契機に国力が徐々に衰退し、新興国イギリスなどとの競争に負け、250年後の今日まで経済的地位は回復していません。ポルトガルは日本と同じ加工貿易国家であり、主要港リスボンとその周辺の工業が壊滅し、当時のGDPの3~5割が地震により失われて、没落が始まっています。

もし近い将来、首都直下地震と西日本大地震が相次いで起こったとしたら、その被害総額は前述の数値を足し合わせて193兆円になります。この額は2011年の名目GDPの予測値470兆円の4割に達します。日本の没落を現実のものにしないために、早急に将来の大地震に備えなければなりません。

国民に愛される公共事業を

公共事業の多くは住民の希望によって実現されています。高速道路や新幹線、港湾や空港など、これらの多くは地域住民の希望によって実現してきました。ところが地域住民の利益に直接には結びつかない、例えば、ダムや発電所や下水処理施設などは地元が忌避するいわば迷惑施設なのでしょうか。わが国土に与えられたほとんど唯一の天然資源であります水力発電を活用しようという声が、現在の状況にあっても、大きく湧きあがってこない理由の一つとして、このような認識が必要です。

食物の世界では昔から地産地消という言葉がありますが、今後は、地元が活用(消費)できる形での水力発電形態を考えていくなどの工夫を行って地産地消型の発電を実現し、豊富な包蔵水力を活用していくことが、これからの日本がとるべきエネルギー政策であることを思うとき、国民に愛される公共事業のやり方をこの震災を機に真剣に考え直すことも肝要です。